おおいけ法律事務所 弁護士 﨑山 有紀子

 
 

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なるほどQ&A 市民生活でよく遭遇する法的なトラブル・問題の解決法は

交通事故




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 スーパーで近所の奥さんと一緒になり、その奥さんのご好意で車に乗せてもらって自宅まで送っていただくことになりました。しかしその奥さんが運転を誤り前の車に追突する事故を起こしてしまい、私も怪我をしてしまいました。そこで、その奥さんが契約している保険会社に損害賠償金を請求したのですが、保険会社は「あなたは好意で車に乗せてもらっていたのだから」と言って、私の損害額は減額される、と言ってきました。これって、どういうことですか?


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 ご近所の奥さん(以下、分かりやすくAさんと呼びましょう)の誤った運転によって、質問者さんにけがという損害が発生していますので、質問者さんは不法行為による損害賠償を加害者であるAさんに請求できます。Aさんは自動車保険を保険会社と結んでいるとのことですので、Aさんが質問者さんに支払うべきこの賠償金は今回、保険会社から支払われるという格好になっているわけですね。

 さて今回、質問者さんは運転者であるAさんのご好意で、車に乗せてもらっていました。このような場合は「好意同乗」と呼ばれます。今回、Aさんの保険会社は「好意同乗による減額」を主張して、損害賠償額を低く提示してきたわけです。この好意同乗による減額の根拠はあまり判然としませんが、おそらくは「好意で、無償で乗せてもらっている立場なのだから、(損害など)リスクもある程度負担すべきだ」という考え方に基づいていると考えられます。いずれにしても、このような場合、保険会社は通常よりも2割程度低い支払額を提示することが多いようです。


 かつての判例では、この好意同乗減額を認めたものも多くありました。しかし近時の判例では、単に好意で乗せてもらっていたという理由のみでは、裁判所は減額を認めない傾向にあります。同乗者に何らかの「落ち度」(法律的には「帰責性」と呼びます)がある場合にのみ、過失相殺(1つ前のQ&A参照)の規定を使って減額を認める、というのが、今の裁判実務では通例となっています。

 確かに「好意同乗減額」という考え方は、保険会社が独自に損害額を算定して被害者に提示する際には、今も使われている考え方です。しかし、争いが裁判に持ち込まれた場合には、法的な理屈として独自に検討する意味(実益)がもはや失われている、と言えると思います。もう一度まとめると、単に好意同乗であるという理由だけでは、裁判上は減額されません。裁判所が減額を認めるのは、同乗者側に事故との関係で落ち度があったと認めた場合ですが、それはそもそも「好意同乗」という事情とは無関係な事柄なのです。

 この「同乗者に落ち度あり」とされる場合は、もう少し詳しく分析することができます。すなわち、ⓐ危険関与増幅型と呼ばれるケースと、ⓑ危険承知型と呼ばれるケースとが考えられます。ⓐは、例えば同乗者が「急げ、急げ」とせきたてて運転者に無理やりスピードを出させた結果、事故につながった場合のように、同乗者が交通事故の発生や損害の発生・拡大に関与したり、またはその危険を増幅させたりした、といえる場合です。ⓑは、運転者が無免許だったり、薬物を使用していたり、あるいは過労状態だったりすることを同乗者が分かっていた場合のように、事故発生や損害の発生・拡大が生じる危険性が高いことを分かっていながら、あえて同乗した、といえる場合です。

 名古屋地裁平成20年1月29日判決では、運転者の運転ミスで好意同乗者がけがを負った事案で、①同乗者は当初から運転者が飲酒運転することを容認していた上、飲酒を承知で同乗していること、②同乗者のシートベルト不着用が損害の拡大に一定程度寄与したこと--などを認定し、過失相殺を類推適用して、賠償額の2割を減額しています。



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