不動産賃貸借
アパートの大家です。大勢の人出でにぎわう施設が近くにできたので、この際アパートを取り壊して、コインパーキングに変えようと考えています。アパートの住人さんたちとの契約期間はまだ残っており、住人さんたちには反対されていますが、お金儲けのいいチャンスですので、私としては早く退去してもらわないと困るのですが…
契約期間を定めた建物賃貸借において、その期間中に貸主側から中途解約を申し入れることが可能か否か、という問題ですね。まず、借主(アパートの住人)さんたちが「いいですよ」と任意に解約に応じる場合は、問題にはなりません。解約の申し入れから6カ月経過した時点で、賃貸借契約は終了します。
しかし、ご質問のケースは「住人さんたちに反対されている」場合でした。すなわち、嫌がる借主に対しても、貸主として強制的に立ち退かせることが可能か、という問題になります。このような場合、不動産賃貸借を定めた借地借家法という法律では、以下の要素を総合的に考慮して「正当な事由」があると認められる場合でなければ、借主から中途解約の申し入れはできない、すなわち、立ち退かせることはできない、と定めています。
①賃貸人、賃借人がそれぞれ、その建物の使用を必要とする事情
②その建物賃貸借に関するそれまでの経緯
③その建物の利用状況
④その建物の現況(現在の状況)
⑤建物明け渡しの条件として、賃貸人が申し出た経済的な補償
裁判実務では、要素①、すなわち、賃貸人、賃借人にとっての建物使用の必要性が中心的な判断要素で、要素②-⑤は、①に比べれば従属的で補完的な判断要素とされています。加えて、この不動産賃貸Q&Aで繰り返しご説明している通り、借地借家法は「経済力の点で貸主よりも劣る借主の方を保護しよう」という基本的な考え方に立っています。つまり、ごく大づかみで申し上げれば、「裁判所は特に借家人側の建物使用の必要性を重視して、正当事由を判断する」と考えていただいて構わないと思います。
このようにみてきますと、借主側から反対が出ている状況の中で、金儲け目的で貸主が建物賃貸借の中途解約をしようとしても、それだけの事情では裁判の場ではなかなか認められにくい、ということがお分かりいただけるのではないかと思います。
他方で、例えば「アパートの築年数が相当古く、倒壊の恐れもある」(←要素④)、「大家さんが多額の立ち退き料を提示している」(←要素⑤)などの事情がある場合には、裁判所が貸主からの中途解約を認める可能性もあると言えます。最近の裁判例では、築50年近く経過した木造賃貸住宅について、230万円の立ち退き料(家賃月額2万9000円)の支払いをもって契約終了を認めた事例(東京地裁平成22年7月28日判決)や、築50年以上経過した鉄筋コンクリート造の建物について、老朽化と、周辺地域と一体となった再開発計画を理由に貸主側がした更新拒絶を、2000万円の立ち退き料の支払いによって正当事由ありとした事例(東京地裁平成22年2月24日判決)などがあります。
不動産賃貸借QA1 不動産賃貸借QA2 不動産賃貸借QA3 不動産賃貸借QA4 不動産賃貸借QA5