おおいけ法律事務所 弁護士 﨑山 有紀子

 
 

〒815-0073 福岡市南区大池1-23-8-305

電話092-555-7507

なるほどQ&A 市民生活でよく遭遇する法的なトラブル・問題の解決法は

住宅・マンション




  Qアイコン

 住んでいるマンションで今、大規模修繕の計画が持ち上がっています。年をとっていて新たな出費も難しいので、計画には反対です。最後まで私が反対のまま大規模修繕が決まった場合、私はどうなりますか


  Aアイコン

 経年劣化やバリアフリー化など理由はさまざまでしょうが、大規模修繕は分譲マンションにお住まいの方にとって必ず直面する問題であり、かつ最も重大な問題の一つではないでしょうか。ご質問の方も「新たな出費」に触れておられますが、修繕積立金だけでは費用が足りなければ(そういった場合の方が多いようです)積立金が値上げされたり、一時金が徴収されたりしますから、住人間の合意形成が難しいケースも出てきます。

 マンションの大規模修繕に関する法律的な問題のポイントは、「住人の過半数の同意でできるか、4分の3の同意が必要か」です。区分所有法では、形状又は効用の著しい変更を伴う「共用部分の変更」ならば、区分所有者及び議決権のそれぞれ4分の3以上の多数による集会の決議(「特別多数決議」)を必要としています。一方、そこまでには至らない程度の「共用部分の管理」に当たる修繕ならば、区分所有者及び議決権のそれぞれ過半数による集会の決議(「普通決議」)でよい決まりになっています。

 ではいったい、共用部分の「変更」と「管理」の線引き、言い換えれば、「共用部分の形状又は効用の著しい変更を伴うもの」とそれ以外との線引きは、具体的にはどのようになっているのでしょうか。国土交通省は「マンション標準管理規約(単棟型)コメント」の中で、(「基本的には各工事の具体的内容に基づく個別の判断によることとなる」としつつ)次のような具体例を挙げています。基本的には、これを基準として考えてよいと思います。


 ■「特別多数決議」を要するとしたもの
 ①バリアフリー化の工事で、階段室部分を改造したり建物の外壁に新たに外付けしたりして、エレベーターを新たに設置する工事
 ②その他、集会室、駐車場、駐輪場の増改築工事などで、大規模なものや著しい加工を伴うもの

 ■「普通決議」で可能としたもの
 ③バリアフリー化の工事で、 建物の基本的構造部分を取り壊す等の加工を伴わずに階段にスロープを併設したり、手すりを追加したりする工事
 ④耐震改修工事で、柱やはりに炭素繊維シートや鉄板を巻き付けて補修する工事や、構造躯体に壁や筋かいなどの耐震部材を設置する工事で基本的構造部分への加工が小さいもの
 ⑤防犯化工事で、オートロック設備を設置する際、配線を空き管路内に通したり、建物の外周に敷設したりするなど共用部分の加工の程度が小さい場合の工事や、防犯カメラ、防犯灯の設置工事
 ⑥IT化工事で、光ファイバー・ケーブルの敷設工事を実施する場合、その工事が既存のパイプスペースを利用するなど共用部分の形状に変更を加えることなく実施できる場合や、新たに光ファイバー・ケーブルを通すために、外壁、耐力壁等に工事を加え、その形状を変更するような場合でも、建物の躯体部分に相当程度の加工を要するものではなく、外観を見苦しくない状態に復元する場合
 ⑦計画修繕工事に関し、鉄部塗装工事、外壁補修工事、屋上等防水工事、給水管更生・更新工事、照明設備、共聴設備、消防用設備、エレベーター設備の更新工事
 ⑧その他、集会室、駐車場、駐輪場の増改築工事などで、窓枠、窓ガラス、玄関扉等の一斉交換工事、既に不要となったダストボックスや高置水槽等の撤去工事



 さて、「4分の3」であれ「過半数」であれ、大規模修繕がそのような法律的な要件を満たして決議されると、マンションとして工事は実施されます。共用部分の工事について、その費用は(規約に別段の定めがない限り)区分所有者全員がその持分の割合によって負担すると区分所有法は定めています。そのため、大規模修繕の決議に反対した住人も、その費用負担には応じる法的な義務があります。冒頭にも記した通り、大規模な工事になれば修繕積立金だけでは足りず、新たに別途の費用を各住人が支払う必要があるかもしれませんが、支払いに応じない住人に対しては、最終的には訴訟によって強制的に費用の徴収が行なわれることになります。費用負担に応じたくない方は、実際にはそのマンションの自分の区分所有権を売り、別のマンションに移ることを選択せざるをえないでしょう。



住宅・マンションQA1 住宅・マンションQA2 住宅・マンションQA3 住宅・マンションQA4 住宅・マンションQA5