住宅・マンション
同じマンションの住人が、管理規約に違反して自室を仕事の事務所として使っています。住人以外のいろいろな人が出入りするので、住居としての環境が損なわれ、困っています。事務所としての使用を止めさせたり、その住人に出て行ってもらったりすることは可能でしょうか
マンションに関する法律の一つである「区分所有法」では、マンションの区分所有者がマンションの管理、使用に関して、区分所有者の共同の利益に反する行為をすることを禁止しています。この義務は、部屋を借りているだけの人でも、実際に住人として使っている人には同様に課せられています。
この「共同の利益に反する行為」に対して、区分所有者の全員または管理組合法人は、①違反行為の停止②専有部分(部屋)の使用禁止③区分所有権(と敷地利用権)の競売④契約解除と専有部分(部屋)の引き渡し--を請求することができます。②③④については、訴訟によらねばなりません。
ご質問のケースでは、「管理規約に違反した行為」が問題になっています。国土交通省作成の「マンション標準管理規約(単棟型)」でも「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」(第12条)となっているように、住居用のマンションにおいて、事務所などの目的に使うことを禁止する管理規約は確かに多く見受けられます。しかし、管理規約に違反したからと言って、それがそのまま、上記でご説明したような「区分所有法で禁じられた、共同の利益に反する行為」に該当するわけではありません。
裁判所は、a)マンションの立地や利用状況、b)(問題の住人が)事務所として利用する必要性、c)他の利用者が被っている被害の態様や程度、d)(使用禁止や引き渡しなど)請求されている内容が、他の手段によっても実現可能か否か--などの事情を総合的に判断して、「共同の利益に反する行為」か否かを判断します。その使用が共同の利益に反すると認定された裁判例としては、以下のようなケースがあります。
1) 暴力団の組事務所として使っていたケース。区分所有権、敷地利用権の競売を認めた(2012年2月福岡地裁判決など)
2) 無認可託児所として使っていたケース。託児所としての使用の差し止め請求を認めた(2006年3月東京地裁判決など)
3) 借りていた住人が奇声、騒音、振動等を発していたケース。区分所有権、敷地利用権の競売以外の方法によって「その障害を除去して共用部分の維持を図ることは困難」として競売請求が認められた(2005年9月東京地裁判決など)
ご質問のケースでは、お住まいのマンション全体の利用状況、問題の住人がどのような仕事の事務所として使っているのか、住人以外の出入りがどの程度か、ご質問者をはじめ他の居住者の方々がどの程度の被害を受けておられるのかなどを検討して、「共同の利益に反する行為」かどうかが判断されることになります。
最後に「まとめ」をしておきましょう。マンションにおいて、管理規約に反するなど問題とされる専有部分(自室)の使い方をしている住人がいる場合には、まずはマンションの管理組合からその住人に対して①そのような違反使用を止めるよう請求(注意)するのが第一です。それでも違反使用がやまないならば、先にご説明した通り、②部屋の使用禁止、③区分所有権の競売、③契約解除と専有部屋の引き渡し(のいずれか)を求めて、訴訟を起こすことを検討することになるでしょう。
訴訟として②③④の請求をするためには、あらかじめ総会を開くなどして「区分所有者及び議決権のそれぞれ4分の3以上の多数」による賛成を決議として得ておく必要があります。大規模マンションなど、管理組合が法人である場合にはそのまま管理組合が訴訟の当事者(原告)になれます。管理組合が法人でない場合でも、イ)管理組合が団体としての組織を備え、ロ)構成員の変更があっても団体が存続し、ハ)多数決の原則が採られ、ニ)代表の方法、総会の運営、財産の管理など団体の主要な点が決まっていて、ホ)代表者の定めがある--場合には、同様に管理組合の名で訴訟を起こすことができます。これらに該当しないマンションの場合には、管理者または集会で指定された区分所有者が原告となって、訴訟を起こすことになります。
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